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【第一章】09 ロクマツ断念?

第一章『ロクマツ断念?』── 17番鉄塔 ──

17番の風景● お肉屋さんで買ったコロッケを、それぞれのリュックに詰めた二人は次の17番鉄塔に向かった。
送電線を確認すると、ちょうどお肉屋さんの前にある曲がり角が進行方向だった。その道には一方通行の標識が立っていて、
「こっちから入っちゃいけないんじゃないの?」と言うロクマツに、
「こういう道は、自転車は通っていいんだよ」
と、六太郎は自転車でズンズン進んで行った。ロクマツも後を付いて来たが、すぐに六太郎は道路の右側のガードレールの内側に自転車を止め、
「この辺が、いいんじゃない」
と言いながら背負っていたリュックを下ろした。道路の右側には広い敷地があって、そこは自動車教習所になっていた。横で自転車のハンドルを持って立っているロクマツに、
「コロッケ、食べよう」と言った。
ロクマツは嬉しそうにさっき入れた紙袋の中から、一番大好きなカレーコロッケを取り出して六太郎の顔を見てニッコリと笑った。六太郎は普通のコロッケを取り出した。
二人は道路の反対側の教習所を見るようにして、ガードレールに腰掛けてコロッケを食べ始めた。まだ揚げたてだったのか、サクサクのころもと熱々のジャガイモが空腹を満たした。
「ソースかけなくても、うまいね」
とロクマツが言った。そして二人はまた水筒を取り出して、それぞれの中身を飲んだ。
目の前の教習所は昼休みなのか、動いている車もなく、人もまばらだった。六太郎はさっきカードを投げた16番鉄塔の方を振り返ってみたが、そこからはもう鉄塔は見えなかった。17番の風景
続いて次に向かっている17番鉄塔を見つけようとして、反対方向を見たが真新しい大きなマンションがじゃまで、やはり見えなかった。
六太郎は、この金ヶ作線の鉄塔はいったい何番まであるんだろうか? と漠然とした不安が起こってきた。
「ねぇ、この中って自動車の学校なの?」
と、ふいにロクマツがたずねてきた。もちろんこの辺りのことは六太郎も知らなかったが、
「たぶん‥‥」
と言って、コロッケをひとつ食べ終え、ティッシュで手を拭いた。そして、
「残りのコロッケはまだとっておこうぜ。探検はまだ長そうだしな」
と、自転車のハンドルに手をかけた。
「そうだね。とっておこ」
と言うロクマツに、六太郎はティッシュを渡してあげた。
「行くぞ!」
「わかった!」17番の風景
二人はまた送電線をたどって鉄塔を探した。まずは目の前にある大きな茶色いマンションの向こう側を目指して自転車をこいだ。マンションの敷地内に入る道はきれいに整備されていて、二人がその入り口を直角に曲がった瞬間だった。
「うわっ! あった!」
と六太郎が叫んだ。17番鉄塔は、この大きなマンションが死角になっていただけで、すぐそばに建っていたのだ。
そこはいわゆるマンションの裏側で、人通りも少ない寂しげな場所だった。鉄塔に近づいてみると脚部は地面よりも一段高くなっていて、コンクリートでガッシリと固められ、その上に乗った低いフェンスで囲まれていた。
「なんだか今までの鉄塔の中で、一番強そうな鉄塔だね」
とロクマツが言った。真新しいマンションをバックにそびえ立つ17番鉄塔は、まるでウルトラマンに出てくる人気怪獣のようなスマートさと迫力があった。
「きれいな鉄塔だなぁ‥‥」
六太郎は心の中でそう思った。二人はさっそくカードの儀式を行ったところ、後ろからいきなり誰かに声をかけられた。17番の風景
「おにいちゃんたち?」
振り返ると犬を連れたおばあさんだった。ヒモで繋がれた中型の犬は明らかに雑種で、老犬なのか大人しそうな表情で二人を見ていた。
「ここで遊んじゃだめよ。電気がビリビリってきて、怖いのよ」
とにこやかに言った。六太郎はちょっと照れたような顔で頭を掻いて、
「あ、わかりました。すいません‥‥」
と言って、目でロクマツに合図を送った。
「おばさん、鉄塔って触るとビリビリくるの?」とロクマツが質問をした。六太郎は面倒なことにならないうちに、ここから離れたいと思っていた。
「そうよ、危険だからこうして子どもが入れないように鉄の網で囲まれているの。わかった?」と言って、また微笑んだ。
「は、はい、わかりました」
とロクマツは困った顔でおばあさんにペコリと頭をさげた。するとおばあさんは、
「じゃあね」と言って、犬を連れてまた散歩に行ってしまった。六太郎は少しホっとして、自転車にまたがった。そしてロクマツの方を見て、
「おい、行くぞ」と声をかけた。
「え? 行くって、どこに?」17番の風景
「どこって? 次の18番に決まってんじゃん」
「なに言ってんの、さっきおばあさんに危ないって言われたろ? もう、やめようよ」
「ええええ~~~‥‥?!」
六太郎はひどく驚いた声をあげた。ロクマツは、さっきのおばあさんの「鉄塔って触るとビリビリくるよ」という注意をまともに受け取っていた。
もともと怖がりなうえに、鉄塔その物に対しても六太郎ほど興味を持ってないロクマツだ。六太郎は本当にここでやめてしまうんじゃないかと、かなり焦った。ビビってしまったロクマツに対して、強い口調でさとしても、たぶん逆効果になるだろうと思い優しく論理的に説明することにした。
「なぁロクマツ‥‥、あのおばあさんが言いたかったことは、鉄塔とかフェンスとかに登ったりすると落っこちたら危ないって言いたかったんだぜ。鉄塔自体には電気は流れてないよ」
「なんでそんなこと言えんの?」
「だって電気が流れてんのは電線だけだもん」
「鉄塔にもちょっとくらいなら電気が流れてるかもしんないじゃん‥‥」
「そんなことないよ。春休みにお花見に行ったとき、桜通りの鉄塔に触ったことあるだろ?」
「え? あ、お花見の時ね‥‥、うん、触った」17番の風景
「ビリビリこなかっただろ?」
「うん」
「俺たち以外にも、子供とか大人とかみんな触っていただろ?」
「うん、触ってた」
「しかも桜通りの鉄塔って、まわりにフェンスもなかっただろ?」
「そうだね、ないね」
「な? だから鉄塔には電気は流れてないんだよ」
「そっか‥‥、わかった‥‥」
「じゃ、行く? 冬休みの絵日記も書くんだろ?」
「‥‥‥、うん、行くよ!」
やっとロクマツが自転車のハンドルを握ると、六太郎は心の中で「やれやれ」と思った。

17番プレート

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