第一章『金ヶ作変電所』── 18番鉄塔 ──

 
18番の風景● 二人は17番鉄塔が建っている大きなマンションの裏から、次の鉄塔に向かって出発した。この周辺は一方通行の細い道が多く、新しいマンションやアパート、古くからの住宅街などが密集した地域だった。
人通りも先ほどよりも多くなり、買い物のオバサンや学生、自転車、バイクなどとすれ違う数も増えてきた。そんな地域で送電線を追って細い道をクネクネと進んでいくと、なんとなく車の行き来が多い通りに出た。
その通りは京成電鉄の五香駅東口に向かう県道で、よく渋滞する地域の主要道路だった。そして二人がその道路に出た瞬間、次の18番鉄塔が道路の反対側に建っていたのだ。それはすぐ目の前くらいの位置だった。
「お、あった! 意外と近かったね」
「そうだね」18番の風景
二人は行き交う多くの車に気をつけながら、道路の反対側に渡って18番鉄塔にたどり着いた。そこで見た18番鉄塔の姿に、六太郎は驚いた。
その鉄塔はフェンスに囲まれたというより、あきらかに一つの敷地内の施設として建っていたからだ。しかも18番鉄塔のから伸びた電線は、わずか数メートル先の門型の珍しい形をした鉄塔につながり、そこで止っていたのだ。
六太郎は自転車を降りて、その敷地内に入口らしき道路際の白い鉄門の前に立った。そして門柱には『東京電力株式会社 金ヶ作変電所』と書かれていたのだ。六太郎は焦った。
「ロクマツ! 大変だ!」
「え? どした?」
「ここで終わってるぞ! ほら、あそこの電線見てみろよ!」
「え? 電線?」18番の風景
そう言って18番鉄塔の先の電線を確認したロクマツは、やはりすぐ横の門型鉄塔で終わってることに気が付いた。
六太郎は、進入できない敷地内を外からジロジロと観察するしかなかった。それはとりあえず今までどおりに鉄塔の番号が書いてある表示板を確認するためだったのだが、あの見慣れた表示板がその鉄塔には見当たらなかったのだ。それでもよく観察をしてみると、脚部付近に縦型の白い表示板があることに気付いた。そこには漢数字で『一八』と縦に書かれていたのだ。
「やっぱりこれが、18番鉄塔だ‥‥」と心の中でつぶやいた。
「ねぇ、ここが終点なの? ここなぁに?」と聞いてきたロクマツに、
「変電所だって」
「変電所? それ何? 発電所じゃないの?」
「発電所じゃないよ、ここは。でもここで終わりだ」18番の風景
「じゃあ、ここが金ヶ作ってとこ?」
「前に遊びに行った金ヶ作公園とはかなり雰囲気が違うけど、たぶんここも金ヶ作だと思う」
「どうする? 六ちゃん」
「とりあえず、カードだ」
そう言うと、クラブの8をマジックペンで18に変え、自分の名前と日付を書いた。
「ほら、おまえも」とロクマツに手渡した。ロクマツは「ここで終わりだ」という言葉を聞いて、最後のカード投げ入れ儀式になると思い、これまでよりも丁寧に名前を書いた。そのカードを受け取った六太郎は、
「この中はふだん人が出入りしてるから、鉄塔の下に投げたらすぐ見つかって捨てられちゃうかもしれないな」と言った。
「じゃあ、どうすんの?」18番の風景
「俺、考えたんだけど、見つからないようにさ、鉄塔の横の木の茂みん中に隠すってのはどうだ?」
「葉っぱのかげとか? あ、それいいね」
六太郎は鉄塔のすぐ横に立っている木の茂みを目掛けてカードを投げた。カードは今までの中で一番きれいな回転をして、茂みの中に突き刺さり見えなくなった。
「やったね! 六ちゃん」
「まぁな」と言うと自転車を置いたまま道路沿いを歩き出して、
「ロクマツ、ちょっと来てみろよ」と手招きをした。
ロクマツは「何だろう?」と思いながらあとを付いて行くと、10メートルくらい先に『合同タクシー』という看板があるところで止まった。そこにはさっき見た門型鉄塔のような物が何本も集中して建っていた。それは六太郎がこれまでに見たことがない、不思議な光景だった。
「ねぇ、ここは何をするところ?」
「よくわかんないけど、電車に使う電力とかに関係してるんじゃないか?」
「タクシーって書いてあるけど」
「たまたま京成電鉄と敷地が一緒なのかもね‥‥」18番の風景
「ふう~ん‥‥、‥‥‥‥、あのさ、終点てさ、もっと大きな工場みたいになってると思ってた、俺‥‥」
「そうだな、けっこう期待はずれだったな、ははは」
と、心細く笑った。それからまたロクマツに向かって、
「せっかくだから絵日記にこの変電所も描けるように、よく観察しといた方がいいぜ」と言った。
「わかった」と言うと、ロクマツは手をひさしのようにして敷地内の門型鉄塔を眺めたり、数回ジャンプしてみせて、
「OK、もう、いいよ」と、指でワッカを作ったグッドマークを示して見せた。
「よし! じゃあ、もう一回しいの木公園に戻るか!」
「え? もう一回ってなに?」18番の風景
「なにって‥‥、探検の続きだよ‥‥。だってさ、しいの木公園にあった9番鉄塔から上の番号の終わりまで来たんだから、逆方向の鉄塔も調べなくちゃ意味ないだろ?」
「‥‥‥‥、」
「なんだ?、もういやになったのか? なら、べつにいいよ、やめても」
「え? やめるの?」
「いや、おれは続けるよ、一人でも‥‥。ロクマツは家に帰るか?」
「ちょっと疲れたと思っただけで、俺だって行くよ、探検!」
「ほんとに行けるか? 9番鉄塔から今度は1番鉄塔までだぞ?」
「うん、行く!」
「よし、じゃ、戻ろう」そう言って、二人は来た道をそのまま引き返して、再びしいの木公園へと向かった。

 
 

18番プレート

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