第二章『大きな池』── 5番鉄塔 ──

 
5番の風景● 県営住宅の前の道は、車の通りも少なく真っ直ぐに伸びた道だった。その道と平行に送電線も伸びていて、二人の進行方向にはすでに次の5番鉄塔が見えていた。そしてやがて道がぶつかり丁字路となったところに、5番鉄塔は建っていた。しかしその場所はガードレールではばまれ、しかも数メートル下がった場所が鉄塔の結界になっていた。
六太郎は道路の上から覗くように観察すると、鉄塔の向こう側に違う道があることに気が付いた。
「ここからは無理そうだから、グルッと回ってみよう」
と言って、丁字路を左に曲がって迂回することにした。道なりに5番の風景進んでいくとまた丁字路になっていて、そこのガードレールの付近には背の高い雑草がいっぱいに生い茂っていた。
近づいてその向こう側を見てみると、そこには目の前の視界が一変するほどに開けたクリーンセンターの調整池があった。
雨水を貯めるための池なので、当然雨などがない時は池に水はほとんどない。冬場のこの時期は茶色く枯れた水生植物が一面に広がっているだけだった。
「なんか、ここ、すごいね」
と、背伸びをしながらロクマツが言った。5番の風景
「ここに水がいっぱいにあったら、けっこうな迫力だな」
東京に住んでいる六太郎にとって、その調整池の風景はかなりワイルドに映った。そしてさらに六太郎が目にした物は数メートル先に自然の竹林がワサワサと生えている風景だった。
「おお! すっげぇ~、これ、すっげぇ~じゃん! この竹ってさ、釣り竿とか作れそうじゃん」
と大はしゃぎになった。するとロクマツも、
「え? ほんと? 釣り竿になるの?」と目を輝かせた。
二人はそこに自転車を止めて、竹に触ったり掴んでゆすったり、空手チョップのマネのようなことをしてみた。
「ロクマツ、とりあえず今日は何も持ってきてないから、この竹はまた次回にしようぜ」
「何もって?」
「ノコギリとか植木用のハサミとかさ、あと軍手とか色々いるだろ? 5番の風景釣り竿計画は、また今度にしようぜ」
「うん、わかった。また今度にしよう!」
そう言って、二人は再び自転車に乗り、5番鉄塔への迂回路を進んだ。調整池の横の道から次の路地を右に曲がると、新興住宅が並ぶ一角に5番鉄塔は建っていた。鉄塔の結界はコンクリートで固められ、回りは低い金網で囲まれていた。
「なんか、ここって、しいの木台と雰囲気が似てるね」
「そうだな」
と言って、六太郎は早速カードを用意した。そしてまた名前と日付をペンで書いたあと、5番の風景
「ほら、今度はちゃんと書けよ」
と、そのカードとペンをロクマツに渡した。ロクマツはそれを受け取ると、下手くそだが丁寧に自分の名前を書いた。そして5番鉄塔の低い金網から結界の真ん中をめがけて慎重にカードを投げた。
カードはほぼ中央に上手に落ちた。それを見て六太郎は少し微笑んで、
「あと、4つだ!」と言って自転車をまたいだ。

 
 

5番プレート

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