第一章『結界』── 11番鉄塔 ──
● 二人は次の11番鉄塔を目指して、また上空の送電線をたどりながら自転車をこいだ。送電線はしいの木通りとほぼ平行に進んでいて、間もなく11番鉄塔が見えてきた。そこはしいの木通りに面した場所の駐車場の奥だった。そしてここも10番鉄塔と同様に金網で囲まれていた。
「けっこう近かったね」とロクマツが言うと、
「だね。でもこれからあとが、けっこうきびしいってこともあるから、あんまり油断するなよ」と六太郎が偉そうに言いながら、リュックからスペードのジャックを抜き出した。そして自分の名前を書き終えると、
「ほら、ロクマツも‥‥」と言ってペンとカードを手渡した。ロクマツはさっきと同じように書いた。
「ねえ、これって、11って書いてないよ」
「おまえ知らんのか? トランプって11以上はジャック、クイーン、キングって順番になってんだぜ」
「あ、そうか、それ、同じクラスのジュンイチに聞いたことがあった‥‥」
「ほれ、早く書いて」
「あのさ、ここもさっきと同じように投げて入れるの?」
「それしかないだろ」
「ねぇ、今度は俺に投げさせてよ」と言って、カードを渡さないでいた。
「おまえが? まぁ、いいけど、でも、投げるのにもけっこうコツがあるんだ」
「コツって?」
「わかった。じゃあ、おまえにやらせてやるけど、この次にしような。も一回俺が投げるのを、よ~く見ておいて、次の鉄塔で同じようにやってみろよ」
「ええ~~!! 次~? ほんとに次はやらせてくれんの?」
「ああ、やらせてやるよ、一応、ロクマツは66探検隊の隊員1号だし‥‥」
「え? 俺って隊員1号なの?」
「そうだよ。俺が隊長で、おまえが隊員1号に決まってるだろ?」
「そうだよね。そうか。わかりました隊長!」
「じゃ、俺が投げるとこを、よく見とけよな」と言うと、カードを指で挟んでどの辺りに投げ込もうかと思案した。金網の高さは約2メートルほど。六太郎はできるだけ、鉄塔の中心部の真下に落ちるようにしたかった。それは六太郎が小さい頃から鉄塔に対するある種の思い入れのせいだ。
4本の脚からスラッと伸びて建っている鉄塔は、言わば四角錐という形をどんどん伸ばしたような物だ。つまり同じ四角錐であるピラミッドをノッポにした物と考えていた。なぜそんなことを考えたかというと、幼い頃に六太郎が本で知ったピラミッドには、不思議なパワーがあるということを知り、そのパワーに興味を持っていたからだ。ピラミッドの形をした建造物の真下に果物を置くと、腐らずに長持ちするとか、人間がそこに座ると健康になったり頭がよくなったりする、ピラミッドパワーという不思議な力の話だ。だから鉄塔の真下に名前を書いたカードを置くと、そのピラミッドパワーが自分たちにももらえるような気がしていたのだ。
「ロクマツ、結界って意味分かるか?」
「けっかい? なにそれ」
「神社に鳥居ってあるだろ? あの鳥居が結界」
「わかんないけど‥‥」
「鳥居を境にこっち側の普通の世界と、向こう側の神様のいる世界を分けてるのが結界だよ」
「それで?」
「鉄塔にも結界があるんだぞ」
「どこに?」
「このさ、4本の脚があるだろ? それを結んだ四角形の中が結界ってこと」
「でもそれってさ、六ちゃんが勝手に決めたことでしょ?」
「まぁな」と言って六太郎は照れ笑いをしながら狙いを定めて、いざ投げ込もうとした時、後ろから、
「ちょっと、あんたたち!」というオバサンの声が聞こえた。そこにはスーパーのレジ袋をさげた50歳くらいの女の人がこっちを見て立っていて、
「何をしてるの? そんな所に近づいたら危ないよ!」と言いながら険しい顔をしていた。六太郎は、
「やべっ!」と言うと無造作にカードを金網の中に投げ込み、
「ロクマツ、行くぞ!」と言ってリュックをかごに入れて素早く自転車に乗ってこぎ出した。ロクマツも慌ててあとから着いて行った。それでもそのオバサンは、
「変な物入れたら危ないじゃないの!」とまだ怒っていたが、二人はすぐにそこから脱出することができた。そしてまた、送電線をたどりながら次の12番鉄塔へと自転車をこいだ。
「六ちゃん、さっきのオバサン、ちょっと怖かったね」と、息をこらしながら言うと、
「変な物なんか入れてねぇーっつーの、あれは66探検隊の探検記録カードだっちゅーの! あはははは」と強がってみせた。それにつられてロクマツも、
「探検記録カードだっちゅーの! あはははは」と、同じことを口にして笑いながら自転車をこいでいた。