第二章『必殺!ボール作戦』── 4番鉄塔 ──

 
4番の風景● クネクネと曲がり角の多い新興住宅地を、送電線をたどりながら二人は自転車で進んだ。やがて古い住宅地が見えてきたところの角を曲がると緩やかな坂道になっていて、そこにも大きな竹林があった。
この竹林は先ほどとはまったく違い、かなり太い竹が倍以上の高さで生えていた。
「うわ~、この竹、すごいブッといなロクマツ。さっきのは釣り竿だったけど、こっちのは物干し竿じゃん!」
と、見慣れぬ竹林に六太郎は大はしゃぎだった。
「これはさすがに盗めないね」
と、ロクマツが笑った。その竹林がある坂道を登りきると、広い通りに出た。くすのき通りだ。
この辺りはちょうど松戸と柏の市境になっていて、松戸市に入る地点から街路樹のくすのきが数百メートルも続く道だ。4番の風景
二人が出たところは、そのくすのきがない柏地区で道路の向こう側は広い畑になっていた。その畑の奥の方に、目指す4番鉄塔が建っていた。
二人はくすのき通りを渡り、4番鉄塔に行くための一番近い道を探した。
六太郎が見つけた畑奥へ行きそうな細い道は、右側に古くからあると思われる大きな農家の植え込みが続いていた。たぶん、この畑の地主なんだろう、と六太郎は思った。
細い道の左側にもたくさんの住宅が並んでいた。
やがて4番鉄塔にどんどん近づき、道と垂直になる位置まできて自転車を止めたが、そこから畑に入る道がないことが分かった。
二人はいったん自転車を降り、畑にあぜ道がないか何度も調べたがやはりなかった。しかもその細い道の先は、長い急階段になっていて、自転車で降りるには難しく、さらには鉄塔へは向かいそうもないことが分かった。4番の風景
鉄塔までは十数メートルはあり、この道から入るにはまず無理だと判断した。
「どうする? 六ちゃん‥‥」
「う~~ん‥‥。ま、しょうがねぇな、も一回大通りに戻って、ほかの道を探そうぜ」
と言って、自転車にまたがった。二人は元の道を引き返し、鉄塔を見ながらくすのき通りを松戸市方面にゆっくり進んだ。すると新しく建てられた数件のアパートがあり、敷地内に入る通路が見えた。
「ロクマツ、ここ、ここ」
と言って、二人は注意深く敷地内に入って行った。
そこは本来私道のようなものだから、通り抜ける道ではなかった。4番の風景
奥のアパートの前まで着くと、二人は自転車を降りて、まわりをキョロキョロと眺めた。アパート付近には誰もいなかったし、どの窓も閉まっていて二人の存在を知って注意する人もいなかった。そして今度は畑の中に建っている鉄塔の方を眺めた。するとそこにはあぜ道のような人が歩くスペースがあり、それを伝って行けば数十メートル先の鉄塔までなんとか行けそうだった。あぜ道を確認したロクマツが、
「ここから行ってみよ」
と進もうとした時、六太郎が慌ててロクマツの肩をつかんだ。
「ちょっ、待て!」
「え? なに?」
驚いて振り向いたロクマツに、六太郎は目で方向を示して、
「あそこ‥‥、誰かいる‥‥」
と言った。それは鉄塔から20~30メートルほど離れた先で農作業をしているおじさんだった。
「たぶん、この畑の持ち主だな」4番の風景
「まずいね、見つかったら、絶対に怒られるよね」
とロクマツは弱気になった。すると六太郎は自転車まで戻り、リュックを下ろしてかごに入れ、中からトランプを出してペンでサインした。それをロクマツに渡して名前を書かせている間、またリュックの中をゴソゴソと何かを探していた。そして次に取り出した物は、薄汚れた草野球用のボールだった。
「これ、必殺!ボール作戦!」と言いながら、そのボールをズボンのポケットに押し込んだ。
「どうすんの? それ」と言うロクマツに、
「おまえ、カードをポケットにしまって、リュックは自転車のカゴに入れとけ」
と言い、静かにあぜ道を進んで行った。
二人は遠くで作業をしているおじさんを気にしながら、ゆっくりとあぜ道を進んだ。時々、六太郎はロクマツを見て、
「気配を消せよ」
と小声で言った。ロクマツは口の前に人差し指を一本立てて、シィ~‥‥、という格好をして大げさな抜き足差し足をしてみせた。そんなふうにして二人は4番鉄塔まで到着した。この鉄塔には金網がなく、結界の中はコンクリートで平らになっていた。
「結界の中に入れるけど、コンクリートじゃ埋められないね」
とロクマツが言うと、六太郎は近くから大き目の石を拾ってきて、
「これをカードの上に乗せて隠そうぜ」4番の風景
と言った。その石でカードを隠し終えると、ロクマツはそばに生えていた草を手でむしりとって、その上からパラパラとまいて、
「カモフラージュ、んふふふ‥‥」
と笑った。すると、二人の背後からいきなり、
「なにしてんだ? おめたち?」
という大人の声がした。振り向くと農機具を持った例のおじさんがいつの間にか立っていて、しゃがんでた二人を上から見下ろしていた。ロクマツは呆然とした顔で黙っておじさんを見つめ、六太郎も慌ててポケットを探り出した。そして薄汚れたボールをおじさんに見せて、
「あの、あの、すいません‥‥、これ‥‥、入っちゃって、取らせてもらって‥‥」
と言いながら、ロクマツの袖を引っ張って自転車の方へ走り出した。二人は全力であぜ道を走って行くと後ろから、4番の風景
「芽は踏むなよ~」というおじさんの声が聞こえた。
自転車まで戻りおじさんの方を見ると、鉄塔の下で二人を見ているだけだった。六太郎はおじさんに向かってペコリと頭を下げ、
「すいませんでしたー」
と大きな声で謝った。それを見ていたロクマツも同じように頭を下げ、
「すいませーん」
と言った。おじさんは黙って二人を見ていたが、すぐに元の場所まで戻って行った。それを確認した六太郎は、
「へへ、必殺!ボール作戦、大成功!」と言って、ロクマツを見て自慢気に笑った。

 
 

4番プレート

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