第一章『出発』── 9番鉄塔 ──

 
● 公園から歩いて5分程度のところにロクマツの家があり、9番の風景とりあえず二人はサッカーボールを置いて自転車に乗って出かける計画を立てた。ロクマツの母親はすぐ近所の商店でパートの仕事をしていて、昼間はいつも留守だった。
「六ちゃんはお母さんの自転車、借りちゃいなよ」というので、六太郎はロクマツの母親の物をちょっと拝借することにした。
「探検てさ、何を持ってけばいいんだろ?」とロクマツが聞くので、六太郎は思いつく物を並べて、それぞれのリュックに入れるようロクマツに指示した。タオル、ティッシュ、お財布、水筒‥‥。家の時計を見ると、10時を少しまわった時間だった。
「よしっ! ロクマツ、公園に戻るぞ!」
「ラジャー!」
再びしいの木公園の鉄塔に戻ってきた二人は、公園中央の『金ヶ作線9番』鉄塔の下に自転車を止めた。六太郎は鉄塔を下から見上げ、しばらくの間その美しさに見入っていた。
「こういう形をした鉄塔は、けっこう珍しいんだ」9番の風景
「ふう~ん‥‥、どんなとこが?」
「鉄塔ってさ、大体が銀色でさ、脚が4本あるだろ? でもこの鉄塔は別! 名付けて美観鉄塔!」
「美観鉄塔? そうなんだ‥‥」
「ま、これからどんどん探検してけば、おまえにも分かるよ」
そう言うと六太郎はリュックの中をゴソゴソと探って、何かを取り出そうとしていた。
「これ!」と言って取り出した物は、ロクマツの家で遊ぶために持ってきたトランプの箱とマジックペンだった。9番の風景
「それ、どうすんの?」
「この中からな‥‥」と言いながら1枚のカードを取り出すと、ペンで何かを書き出した。取り出したカードは『スペードの9』。そしてその裏側に『2009.12.29 六太郎』とペンで書いたのだ。
「ほら、おまえも横に名前を書けよ」と、ロクマツにそのカードを渡した。
「え? 何これ?」
「これから俺たちは鉄塔を探検するんだろ? だから確かにひとつずつ探検したっていう証拠を残しておくんだよ」9番の風景
「なんでトランプに書くの?」
「最初は遊戯王カードとかに書こうかと思ったけど、もったいないしな。ほら、トランプだったら最初から数字が書いてあるだろ」
「で、書いたあとはどうすんの?」9番の風景
「鉄塔のどこか、見つけにくい所にそっと挟んでおくんだよ」
「でも、トランプを使っちゃったら、もったいなくない?」
「平気平気‥‥、それ100円ショップで買った安いやつだからさ」
「そうなんだ‥‥、じゃぁ、俺も名前書く」と言って、ロクマツもカードに自分の名前を書き記した。そしてそれを六太郎が9番鉄塔の脚部の隙間にそっと挟んで隠した。9番の風景
「なんか本格的な探検って感じだね」と、ロクマツは上機嫌だった。
「よし! これからわれら66探検隊のスタートだ!」と六太郎がリュックを背負って自転車にまたがるとロクマツも、
「スタートだ~!」と勢いよく手を上げた。
「ねぇ、六ちゃん、この上の電線を伝って次の鉄塔に行くんでしょ?」
「ああ、そうだよ」
「でも、どっち側の電線にするの?」
「金ヶ作っていうのは、あっち方面」
六太郎はさっそく自転車をこぎ出した。

 

9番プレート

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