第一章『女型鉄塔』── 10番鉄塔 ──

 
● 二人は送電線を見ながら、自転車で一列になって公園を出た。送電線をたどって行けば、目指す金ヶ作のどこかに到着できるのだ。10番の風景9番の風景二人はゆっくりと、そして慎重に送電線の方向を確かめながら進んだ。
公園の横の京成リブレの裏を通ってしいの木通りに出ると、送電線はローソンの方に向かっていた。その方向を目指して歩道を進んで行くと、すぐに次の鉄塔が見えていた。
「ロクマツ、あれだ」
ローソンの前の押しボタン信号機が青になるまで待っていると、
「あっ、ロクちゃん!」という声が聞こえた。それはロクマツの同級生のセイジだった。セイジは小さな妹と一緒で、手には京成リブレのレジ袋をさげていた。
「ロクちゃん、自転車でどこ行くの?」
「えへへ‥‥、これからちょっと探検に行くんだよ、探検に、へへっ」
「探検? なんの? どこによ」と訪ねるセイジを歩道に残し、青信号になった道路を自転車をこいで渡った。もう一度振り返ってみると、セイジは妹と歩道に立って、じっとロクマツの方を見ていた。10番の風景
「ねぇ~、どこ探検に行くの~!」と、また大声で聞いてきた。
「今度くわしいこと教えてやるよ~」と軽く手を上げ、自転車をこぎ出した。目指す鉄塔は家と家の間の狭い場所に建っていた。二人は鉄塔のもとに着くと自転車を止め、この鉄塔の表示板を探した。
「あ、10って書いてある」とロクマツが言った。
「ほんとだ、10ってことはひとつ番号が上がったということだな」
「そういうことだな」と言ってロクマツはニコニコ笑っていた。六太郎は10番鉄塔を下からじっくり眺め、
「女型鉄塔だな」と言った。10番の風景
「女型って?」
「あのさ、鉄塔の上の方で電線が繋がっているところをよく見てみな。ほら、白い筒みたいなやつ‥‥。あれ、碍子(がいし)っていうんだ」
「がいし?」
「絶縁体って分かるか? 要は電気を通さない物体っていうか‥‥」
「それがあると女の鉄塔なの?」
「いや、碍子ってのは、どの鉄塔にも付いてるんだけど、それが下を向いてるのと横を向いてるのがあるんだ」
「あ、この鉄塔は横向きになってる」
「だろ? だから女型鉄塔なんだ」
「じゃ、下向きは男?」
「そう、下向きが男型鉄塔‥‥、俺が勝手に決めたんだけどね、ふふふ」
そう言うと六太郎はさっきと同じようにリュックからトランプを1枚取り出し、今度はスペードの10に日付と自分の名前を書き、
「ほら、おまえも書いて」とロクマツにカードを手渡した。10番の風景
この10番鉄塔は公園に建っていた9番鉄塔と違い、4本の脚を持つ一般的な形をしていて、さらに鉄塔の下に入ることができないように高い金網で囲まれていた。しかも網の上部には鉄条網も張り巡らせてあった。
「六ちゃん、どうやってこの中に入るの?」
「いや、さすがにそれは無理だな‥‥」と言いながら、六太郎は金網の回りをゆっくりと観察しながら歩いた。そのあと、六太郎は決心したかのような顔をして、カードを中指と人差し指に挟んだ。そしてまるでブーメランを投げるように「シュッ」と金網の上の方に向かって投げ入れた。カードはコマのようにクルクルと回りながら飛んでいくと、金網の中の鉄塔の下に行儀よく落ちた。
「よしっ、大成功!」と言って、六太郎はロクマツの顔を見てニヤリと笑った。するとロクマツは、10番の風景
「六ちゃん、すげえテクニックだね~」と、言ったが、
「でもさ、六ちゃん、あのカード、隠れてないから誰かに見つかっちゃうんじゃない?」と心配していた。
「大丈夫だよ、だって俺たちだってこの中に入れないんだから、他のやつらも入って取れないだろ?」
「あ、そうか! 頭いいな」
「よし、ロクマツ! 次行くぞ! 次は11番だ」
「ラジャー!」

 

10番プレート

.

第一章【3】[ 結界 ] へ進む

申し込む
注目する
guest

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

0 コメント
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る