第二章『最後の鉄塔』── 1番鉄塔 ──

 

1番の風景

 
1番の風景● 最後の1番鉄塔。それは2番鉄塔からほどない距離に、圧倒的な存在感で建っていた。
それはそれは大きくて迫力満点の鉄塔だった。しかも三本並んで建っていた。
すぐ横にも二本、そして少し距離があって一本。道の反対側にも何らかの施設があって、そこにも形が違う数本の鉄塔が建っていた。二人はこの鉄塔群の前の道路に自転車を止め、呆然とその雄大な姿を眺めた。
「すごいな‥‥、ロクマツ」
「すっごいデカイね」
「ここまで来てよかったな」
「うん」
「おまえ、絵日記にこの鉄塔を描いたら、クラスのヒーローになれるかもよ」
「うん、これ描くよ」
二人は歩きながら鉄塔群をじっくり観察した。三本並んだ巨大な鉄塔には、それぞれ表示板があってそれを確認したところ、右側の鉄塔には『東葛高柳線68』、左側の鉄塔には『高柳沼南線1』、そして真ん中の鉄塔には『金ヶ作線1-1』と書いてあった。1番の風景
「ロクマツ、この真ん中のやつだけが金ヶ作線で、ほかのは違う電線から来てるみたいだぞ」
「そうなの? 別の線ってこと?」
「そうみたい‥‥、だけどさ、これよく見てみろよ。1-1って書いてある‥‥」
「ただの1番じゃないの? どういうこと?」
六太郎は『1-1鉄塔』の上空の送電線の行き先を確かめた。そこには10メートルくらい離れて、やや小さ目の鉄塔が建っていて、表示板には『金ヶ作線1』と書かれてあった。
「あれだ! ロクマツ! あれが本物の1番鉄塔だ!」
二人は枯草でいっぱいの造成地のような小山を登り、金網で囲まれた『本当の最後の鉄塔』の前に立った。1番の風景六太郎はリュックの中から『スペードのエース』を取り出して、最後の儀式の準備をした。二人の名前を書き終えると
「最後のカードはおまえが投げろ」
と言って、ロクマツに手渡した。
「え? 俺が投げていいの? ほんと?」
「いいよ、失敗しないように慎重にな」
「うん、わかった!」
そこで背後からいきなり大きな声がした。
「こらっ! おまえたちそこで何してんだ!」
振り返ると、作業着姿のおじさんが道路から二人を睨んでいた。1番の風景
「やばい!」と小さな声で六太郎が言った。
「子どもがそんなとこまで入っちゃダメだ! こっち来い!」
「あのおじさん、怖そう‥‥」
とロクマツが怯えた声で言うと、六太郎はリュックの中から例の薄汚れたボールを取り出し、おじさんに見えるように手を高く上げて、
「あの‥‥、これ、ボール、入っちゃって‥‥」とその場を取りつくろった。
「ボール? とにかくこんなとこで遊んじゃダメだ!」
「はい、分かりました」
そう言って二人はおとなしくおじさんの方へ向かった。1番の風景
「ここは立ち入り禁止! だから野球もやっちゃダメ! わかった?」
「はい、分かりました」
「君ら、高柳小? 何年生?」
「え~と、僕が5年生で、こっちが3年生です」
高柳小というのは、さっきの小学校だと言うことは分かっていたし、もちろん六太郎もロクマツも違う小学校だったが、ここは黙っていた方がいいと判断して学年だけを答えた。おじさんは
「また学校側に注意しとかないとなぁ‥‥」1番の風景
などとブツブツ言いながら、道路の反対側の施設の方にゆっくり歩いて行った。それを見てロクマツは、とっさに、
「おじさん! そこで働いてる人?」
とたずねたのだ。するとおじさんは面倒くさそうに、
「そう、東電の職員」と言った。
「トウデンて?」
「東京電力っていう電気の会社だよ」
「そこの建物は何?」
「これは変電所、へ・ん・で・ん・しょ!」
と投げやりに言い捨てて、施設の中には戻らず、すぐ横の道路に止めてあったトラックに乗った。
トラックは2台あって、おじさん以外にも同じような作業服を着た人たちが数人いて、工事用に使う道具の後片付けをしていた。よく見ると、施設の横の道路工事をしている人たちのようだった。しかもトラックには○○設備という社名が入っていたので、東電の社員だというのは、きっと嘘だろうなと六太郎は思った。
「やな感じのオッサンだねぇぇぇ~」1番の風景
とふざけてロクマツが言ったので、六太郎も、
「だな」と言った。ロクマツは、
「ねぇ、カード、まだ入れてないよ‥‥、も一回行こ!」
と言ったが、まだすぐ近くにいるトラックを見て、さすがにそれはマズイと六太郎は思った。しかもすでに夕方。陽は傾いてもうすぐ暗くなる時間になっていた。
おじさんが変電所と言っていた施設の門の前に行ってみると、そこには『東京電力株式会社 高柳開閉所』と書いてあった。
施設の中にはまるで乾電池のお化けのような、大きい充電池のような物が何本も並んでいた。そして種子島から打ち上げられるロケットのようなイメージの鉄塔や、1番の風景マッチ棒を何十倍にも大きくしたような細長い鉄塔もあった。
陽はますます傾いていった。
「ロクマツ、残念だけど、今日はもう帰ろう!」
と言って、自転車のところへ戻ろうとした。しかしロクマツは、
「あと1枚じゃん!」
と、ふくれっつらしていた。
「大丈夫だよ、また明日があるよ」
とロクマツを納得させて、二人は来た道を急ぎながら自転車で家に戻った。家のやや近くまで来ると、もうほとんど陽が落ちてきて自転車のライトを点けるためにいったん停車をした。そのとき六太郎は、
「ロクマツ、今日の探検のことは帰っても秘密にしとこうぜ」と言った。
「わかった」と言って、ロクマツはちょっと悪そうな顔をして笑った。

 
 

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1-1番プレート

1番プレート

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