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【第二章】07 拾ったカギ

第二章『拾ったカギ』── 2番鉄塔 ──

2番の風景● さんざんな思いをして出てきた二人は、その小学校とは道路を挟んで反対側に建っている『高柳中学校』と書かれた校門を見つけた。
二人の目は、その校門から校舎へと続く校内の道に奪われていた。
その道は赤茶色の敷石が真っ直ぐに敷き詰められ、両脇にはすっかり葉を落としたたイチョウの木の街路樹が綺麗に並んでいたのだ。その風景を見てロクマツは
「なんだかさ、絵葉書みたいな景色に見えない? この道」
と言った。六太郎の目にも、その道の景色は美しく映ったのだが、頭の中では別のイメージを浮かばせていた。「鉄塔が綺麗に並んでるみたいだ‥‥」と。
確かにそんな思いを抱くほど、街路樹の整然と連なる風景は見事だった。六太郎は思い出したかようにリュックの中から水筒を出し、ゴクリ・ゴクリ・ゴクリとのどを鳴らして冷たい水を飲んだ。ロクマツにもその水筒を示し、
「飲む?」2番の風景
と聞いたのだが、ロクマツは首を振った。
「さぁ、あと2つだ!」
と六太郎が言って、上空の送電線の方向を確認した。目指す2番鉄塔の方向は学校の前の通りを斜めに突き抜け、住宅の向こう側に向かって続いていた。自転車をこいで進んでいくと、道路沿いに並ぶ住宅のすぐ裏の方に2番鉄塔が建っていた。
とりあえず鉄塔に一番近い場所で自転車を止め、鉄塔への入り口を探してみたがなかなか見つからなかった。
「なあ、ロクマツ‥‥、俺たち4番鉄塔でけっこう迷っただろ? ほら、畑の中に入る道がわからなくて」
「そうだよね」
「ここもちゃんと確かめてから進まないと、また迷っちゃうんじゃないか? あとふたつだし、じっくり行かないとな」
「んん‥‥、そーだよね‥‥」
と言って、ロクマツはちょっとだけ考え込んでいた。かと思うと、いきなり自転車にまたがり、
「六ちゃん、ちょっと来て」
と言って、さっき出てきた小学校の校門に向かって走り出したのだ。六太郎も何事かと、慌ててあとを付いて行った。
「おいっ、どこ行くんだよ!」
と声を荒げる六太郎に対して、ロクマツはさっきの小学校の校門の前まで来て自転車を降りて、
「ここで待ってて」2番の風景
と言い直してどんどん学校の中に走り去って行ってしまった。
「待っててよ~」
と、再び遠くからロクマツの声が聞こえた。六太郎は訳も分からず、仕方なしに自転車にまたがったまま、ロクマツが戻って来るのを待つことにした。時間を無駄にしたくなかったので、トランプケースから儀式用の残りのカードを2枚抜き取って、投げ入れるためのサインの準備をしておくことにした。その後、数分経っただろうか。奥の方から、
「六ちゃ~ん、お待たせ~」
というロクマツの声が聞こえた。
六太郎が顔を上げて見てみると、さっき二人をかばってくれた水色のトレーナーを着た女の子が、ロクマツと一緒に付いてきていた。
「この人、この辺りに住んでるんだって‥‥」
六太郎はかなり動揺した。
「ロクマツ‥‥、なに、おまえ‥‥」
「俺、さっきの子たちの中の誰か、この近くに住んでる人がいるんじゃないかって、一応聞いてみようと思って‥‥、そしたら、この人が鉄塔のこと分かるって言うからさ‥‥」
ロクマツがそう言ったあと、六太郎はもう一度その女の子の顔を見た。どちらかというとボーイッシュな感じのする端正な顔立ちの彼女は、無表情で真っ直ぐに六太郎を見ていた。六太郎はその目ぢからに、思わずペコリと会釈したのだが、その子は近づいてきて
「ねぇ、なに小?」と聞いてきたのだ。
「え?」と聞き直すと
「きみ、どこの小学校? ずっと前に、会ったことあるよね?」と、またも無表情で聞いてきた。
「え?」2番の風景
「ずっと前‥‥、会ったことあるよね? おぼえてない?」
六太郎は彼女の顔を遠慮がちにまた確認した。でも、彼女の顔を覚えてはいなかった。
「俺、ずっと東京の学校に通ってるんだけど‥‥」
「東京の学校?」
「ああ‥‥」
「ずっと?」
「うん、そう、ずっと‥‥」
「な~んだ、じゃあ、勘違いかも‥‥」
と言って、彼女はいきなり興味をなくしたような顔をした。
「ねぇ、この子が鉄塔の場所を教えてって言うんだけど、なんかあったの?」
「いや、ただ、遊びで鉄塔を探してただけだけど‥‥」
「ふう~ん‥‥、ま、なんだか知らないけど、こっちよ」と言って、彼女はスタスタと歩き出した。二人は黙って自転車を押しながら、そのあとを付いて行った。すると鉄塔の近くまで行く前に、さっきは気がつかなかった空間のような場所で止まった。そこは道沿いに並ぶ家と家の間にある、道とは思えぬような雑草が生えた空地だった。
「こっから入れるよ」
と彼女はどんどん歩いて行った。二人は道路に自転車を置いて黙ってあとを付いて行くと、私有地のようなその空地の先は左側に曲がっていた。そしてそこは小さな畑になって、その一番奥に2番鉄塔が建っていた。六太郎は先をどんどん歩いていく彼女に、
「ありがと、もう分かったから、いいよ」と声をかけた。
「あら? あたしがいたらマズイ?」2番の風景
「いや、そうじゃないけど、畑の土で靴が汚れちゃうんじゃない?」
「平気よ、べつに」
と気にせずに鉄塔の下まで歩いてきた。六太郎は仕方がないので彼女のことは放っておくことにして、あらかじめ用意しておいたカードとペンをポケットから出してロクマツに渡した。ロクマツが当たり前のように自分の名前を書くと、それを見ていた彼女が、
「なに、それ?」と興味を示した。
「これ、ピラミッド・パワーのおまじない」
と、ロクマツはカードを鉄塔の結界の真下に置く儀式を説明した。
「あたしも名前書いていい?」
と彼女がロクマツに聞いた。ロクマツは六太郎を指差して言った。
「隊長は、あっち‥‥」
ロクマツに指差された六太郎は、
「べつに、いいよ」と答えた。
「ありがと」と言って、彼女は『葉月』と書いた。
六太郎はそこで初めて彼女の名前を知ることになった。2番鉄塔には金網がなく、自由に結界の中にも入れた。三人は近くに落ちていた棒で穴を掘り、カードを埋めてから地面を固め、表面の土を綺麗にならした。儀式が終わって道路まで戻ると彼女は、
「ねぇ、ちっちゃい頃、桜通りでカギを拾ったことない?」と六太郎にきいた。
「え? カギって?」
「あたしん家のカギ‥‥」2番の風景
「どうだろう?‥‥」
「あ、そう? じゃ、やっぱ勘違いかも‥‥」
そう言うと彼女は、
「面白かった、またね!」と軽く手を上げて小学校の方へ走って行った。次の瞬間、六太郎はいきなり遠い記憶を思い出した。それは六太郎が2年生になったばかりの頃、春休みに家族でロクマツの家に遊びに来て、みんなで桜まつりに出かけた時のことだ。
桜通りは車両通行止めの歩行者天国。満開の桜と何十件もの出店と大勢の人で溢れていた。中央分離帯にはシートを敷いた花見客で賑わい、六太郎もこの日ばかりは大好きな鉄塔に触りたい放題だった。その時、六太郎はある鉄塔の下で、確かにカギを拾ったのだ。そしてそのカギを六太郎が母親と一緒に桜まつりの遺失物取扱所へ届けに行ったところ、すでに落とし主がそこで待っていた。
小学校の低学年くらいの女の子が三人いて、その中の一人の子の家のカギだった。女の子は六太郎にお礼をいうと、カギに付いていたストラップのような物をはずして、
「これ、あげる」と六太郎に手渡した。それは透明の四角い硬質プラスチックに赤いヒモがついた手製のストラップだった。真ん中に青いペンで『はづき』と書かれてあった。六太郎はとくにそのストラップに興味はなかったが、今でも机の一番上の引出しの中に入っていた。2番の風景
「葉月って、あの、はづき?‥‥」
女の子の名前を、心の中で確認していた。そのときロクマツがポツンと言った。
「俺、役にたった?」
ロクマツは蛇が出そうな6番鉄塔で自分がズルしたことへの、きっと恩返しのつもりだったんだと六太郎は感じた。
「うん、すっげぇ役に立ったよ、おまえ」
六太郎がそう言うと、ロクマツはとても嬉しそうに静かに笑った。

そして最後の鉄塔へと向かう二人の行き先には、想像以上の鉄塔が、いきなりそびえ立っていたのだった。

2番プレート

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