第一章『ロクマツの第一投』── 12番鉄塔 ──

 
● 12番鉄塔は、しいの木通りよりも少し斜めに角度を変えて、しいの木台4丁目の住宅地の中に建っていた。そこは家と家とに挟まれた窮屈な場所だった。この鉄塔にもやはり周りを囲む緑色の金網があった。
「ここだね六ちゃん、12って書いてあるね」12番の風景
鉄塔の表示板の数字を確かめると二人は自転車を止め、鉄塔を見上げた。
「ロクマツ、見ろ! これは男型鉄塔だ」
「ああ~、ほんとうだ~、碍子が下向きになってる。初めての男型だね」
「そうだな」
そして六太郎はあたりをキョロキョロと探り始めた。
「ロクマツ、また変なオバサンとかに見つからないように、おまえまわりの様子を偵察してろ‥‥」と小声で言うと、
「ええ~!? 今度は俺に投げさせてくれるって、さっき言ったじゃん!」と、納得できないとばかりに抗議した。
「さっきはおまえに手本を見せる前に、あの変なオバサンに見つかっちゃったんだから、しょうがないだろ? な? おまえ隊員1号だろ? 隊員てのは偵察も大事な仕事なんだぜ」
「やだ! ここは俺が投げる!」
と口を尖らせて六太郎をにらんだ。12番の風景
「じゃ、わかったよ、そのかわりなるべく鉄塔の結界の真ん中あたりに落とせよ」
「え? なんで?」と理由を聞きたがるロクマツに、六太郎はピラミッドパワーの話をしてやった。
「六ちゃんて、なんでも知ってんだね。俺もさ、前にテレビでピラミッドって見たことあるけど、そんなパワーことは言ってなかったと思うよ」
「だろ? だからこれは俺たちの秘密の儀式なんだからな? あんまりペラペラと、このことを人にしゃべるなよ。みんながやり出すと効果が薄くなるかもしんないしな‥‥」
「ラジャー!」12番の風景
「よし、じゃ、ここは隊長の俺が回りを見張ってるから、おまえがカードを投げてこい、隊員1号!」と言いながら、ロクマツの肩をポンと叩いてクイーンのカードを手渡した。
ロクマツはカードを受け取ると、少し腰をかがめ、緊張した顔でゆっくりと金網の方へと歩いて行ったが、はたから見れば余計に怪しい動きだったに違いない。しかもここの金網のまわりは植木で囲まれていて、投げ込む場所はわずかのスペースしかなかった。
「ロクマツ、早く投げろ! ちゃんと真下に落ちるようにだぞ」と急かした。
ロクマツは六太郎がやった時と同じようにカードを中指と人差し指の間に挟み、片目をつぶって投げる位置を確認しはじめた。すると鉄塔の横の家の2階のサッシ戸がいきなりガラガラと開いたのでロクマツが慌てて見上げると、その家の主婦らしき女の人が洗濯篭を持ってベランダに出てきたのだ。
ロクマツはビビって、背後の六太郎の顔を伺ったが、六太郎は手の裏を押すような格好で
「早く投げろ!」という合図を送っているだけだった。
さいわいベランダの主婦は洗濯物を物干し竿にかけるのに熱中していて、下のロクマツの行動には気付いてないようなので、ロクマツは意を決してブーメランを投げるようにカード金網の上に向かって回転させた。するとカードは、クルクルと回りながら鉄塔の下に落ちた。しかも六太郎が投げた時よりも、ほぼ真下に近い奇跡的な位置だった。
ロクマツはもう一度ベランダの主婦を見たが、まったく気付いてない様子だった。
ロクマツは投げる前と同じように大げさに腰を落として、まるで泥棒のようにゆっくりと六太郎と自転車のある位置まで戻ってきて、
「作戦成功!」と言って親指を立てて見せた。

 

12番プレート

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